2023年9月12日火曜日

Tootsie - This Thing

マックス:
僕の感じてるこれはなんだ?
胸の内からあふれ出てくるのは?
僕を天井へと押し上げるこれは?
ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー

近所の人:
おい、静かにしろ! 近所迷惑だぞ!

マックス:
聴こえてくるこの音はなんだ?
僕をみちびく鐘の音なのか?
前触れもなく現れたのは?
ドロシー、ドロシー、ド~オ~オ~オ~オ~

近所の人:
おい! うるせえんだよ! 黙れっつってんだろ!

マックス:
これはいったい何だ 僕を眠れなくさせる
気が散るほどの欲望に酔いしれてしまって
これはなんだ 頭の中に詰まってしまった
釘のようにささって ペンチが見つからないみたいな
取り除いてくれって僕は叫ぶけど
君の名前が浮かんで そうすると
僕はまるで 一匹の蛾が
メスの蛾に惹かれていくみたいな気分
その蛾が君なんだ
どうすればいい?
これは何だ この気持ちは?
おかしいよね だって君はオバサンで僕は若いのに
それに僕の腹筋は花崗岩を切り出したみたいに立派だし
僕の身体は完璧で あそこも大きいし
君はオバサンで ってもう言ったけど とにかく
君が痩せてなくても構わない
僕はすっかり君に惚れこんでしまった
わかるんだ 特別な何かが
今にも始まろうとしている
嬉しくてたまらない
これは何だ?
いったい何なんだ?
この何か 僕を不安にして怖がらせる
でもとうとう さらけ出す時がきた
これは正しくて 大きくて 人と分け合われたい
だから君にもまさぐって 感じて欲しいんだ
君を永遠に愛すると誓うとも
恥ずかしがらずに証明してみせる
(胸に掘ったタトゥーを見せる)

マイケル(ドロシーの声で):
それって…私なの?

マックス:
ちょっと膿んじゃってるけど
絶対に消すつもりはないよ
これは消えないシミのように残り続ける
僕をあざけり苦しめ続ける声みたいに
君が僕の脳にぶっ刺した素敵な杭のように
この何か
この何かは
君なんだ

2023年9月10日日曜日

Tootsie - Jeff Sums It Up

ジェフ・スレイター:
そう昔でもない頃 とある男がいた
怒りっぽくて大人になりきれてない感じの
やる気はあるけど自己破壊的
文句を言いながらも人生を足掻いてた
そんな時に 男の野望と偶然的状況が
なんとも数奇なチャンスを運んできた
とはいえ誇大妄想狂で崖っぷちにいる俳優ぐらいしか
掴もうとなんて思わないようなやつだ
そんでまあ当然ながらその男
ああそうだ、お前のことだよ、いちおう言っておくと
そいつはドレスとカツラとハイヒールを身にまとい
なんと実際に役を勝ち取ってしまう
そんで驚いたことに ぜんぶがとても順調に運んだ
でもそれから そうだな、なんて言おうかね
お前はやらかした
マジでやらかした

拍手を貰って 名声も得たわけだ
けど実際のところそれはお前のもんじゃないよな
なのに今度は
お前を別人だと思ってる女と恋にまで落ちてる
忘れてるかもしれないから
お前が何者なのか 念のため教えてやろう
お前はやらかした男だ
マジでやらかしたんだ

いいかマイク、俺にはわかってる
チャンスの神様ってやつが 焦らしながら忍び寄ってきた時に
お前はそいつの金玉をわし掴むタイプの男だよ
んで彼が悲鳴を上げて「俺の金玉から手を放せ!」って言っても
お前は力を込めて握り続けちまう
でもそういう時こそだな
あれ 何の話してたんだっけか

まあとにかく 言ってることはわかるだろ
お前はヘマしたんだ 伝説的失敗だ
こんなこと言いたくはないよ
「ほら言ったろ」って言えて嬉しいなんて
でもめちゃくちゃ嬉しいわ
ほら言ったろ!
俺言ったよな!
だから言ったじゃんか!
お前はやらかした
マジでやらかした

お前は終わった

マイケル:
俺は終わった

ジェフ:
選択を間違えた

マイケル:
選択を間違えた

ジェフ:
お前は勝負に負けた

マイケル:
俺は勝負に負けた

ジェフ:
狂気の沙汰("インセイン・イン・ザ・メンブレイン")

マイケル:
あれいい歌だよな

ジェフ:
重大な誤作動だ

マイケル:
ぜんぶ台無しにしちゃった

ジェフ:
まるでヒンデンブルク号の船長

マイケル:
"Oh, the humanity"(ヒンデンブルク号爆発事故時のレポーターの有名な言葉)

ジェフ:
やっちまったな

マイケル:
その通りだ

ジェフ&マイケル:
バンパー・カーのタイヤが外れた

ジェフ:
惨めな大失敗(しっちゃかめっちゃか)
お先真っ暗
お前はやらかした(もう何もかもダメっぽい)
お前─ ボールチェンジダンスだ
お前はやらかした
お先真っ暗だ
お前はやらかした
よし ファン・キック!
バッファロー・ステップ!バッファロー!シャッフルからのバッファロー!
ジャズ・ハンズ!ジャズ・スクエア
(ジェフ!ジェフってば!)

マイケル:
ジェフ!静かに!

マイケル(ドロシーの声で):
もしもし? こんにちは。
あらぁ! ええそうね、楽しみだわ!
ありがとう!

マイケル:
ジェフ! 劇の演者達がジュリーの歌を聴きに行くらしくてドロシーも招待された。俺がジュリーにキスしてから彼女には避けられてるわけだけど、彼女はドロシーを信用して男に求める理想を打ち明けたりもしてる。だろ? つまり俺がマイケルとしてジュリーに会えば、そういう情報をうまく使って俺に惚れさせることができるはずだ。それで彼女とドロシーの仲も修復すればいいんだ!

ジェフ:
幸運を祈る!
神のご加護を、マイク
本当に心の底から成功を祈ってる
そうだな、俺も一緒についていこう
倫理的サポートのためにな
だって友達だからさ
でもまあ理由のほとんどはただ興味があるからだ
お前がこれからどうやらかすか


2023年9月7日木曜日

Tootsie - What's Gonna Happen

サンディ・レスター:
どうなるかはわかってるの
私は眠ろうとするんだけど
頭の中では失敗への恐怖が
オオコウモリみたいに飛び回ってる
30分だけ眠ったところで
6時の目覚ましが鳴って
石でも飲み込んだみたいな心地で
シャワーを浴びて目を覚ますの
だから朝食なんて食べられない
せいぜいお茶を飲むくらい
内視鏡検査を受ける時みたいにね
ちなみにそっちの方がまだマシよ
絶対に受かりっこないって知りながら
オーディションを受けにいくのと比べたら

なんにせよ私はオーディションのためにダウンタウンへ向かうの
私の不安がすべて現実となる場所にね
それでどうなるかって言うと
お腹を空かせた私が力なく会場に入ったら
私に似てるけど私より10歳は若そうな女の子たちが
12人くらいいる
私は化粧室に行って発声練習をする
「ミンガ・ミンガ・ミンガ・ミンガ・ミン」って具合に歌うけど
聞こえるのは「サンディはダメ てんでダメ 本当に全っ然ダメ
おまけに歳くってるし ダサいし」そしたら誰かが私の名前を呼んで
するとどうなるかっていうと
部屋に足を踏み入れた私を
気持ち悪い蛍光灯の明かりがお墓のように歓迎する
みんな笑顔で「はじめまして」って言うけど
私の目にはみんなスカリア判事にしか見えない
それからちょっと雑談なんかしながら
じろじろと品定めされて
私は不安と自己嫌悪の霧の中をなんとか手探りして
自分が賢くて愛嬌があって一緒にいて楽しい人間だと
彼らに思いこませようとする
でも化けの皮が剥がれようとしてるのがわかる
頭の中で木槌の音が響く

有罪!
そういって厳しく罰せられるの だって私は
有罪!
のこのこ現れて皆の時間を無駄にする罪で
有罪!
他にもおよそあらゆるショービズ界における罪で
若くない 細くない 美人じゃないし 上手くもない
判決を言い渡します
主文、被告人を生涯ずっと給仕バイトをしながら自己嫌悪に苛まれ続ける刑に処す

マイケル・ドーシー:
サンディ…

サンディ:
ちょっと待って 誰かが私に
「では歌声をきかせてもらっていいかな」って言ってる
私は「仕方ないですね」なんてサムい軽口で笑いを取ろうとしつつ
ピアニストに頷いてみせる
彼はいっつも黒い服を着てて
いつもタートルネックの背中にフケが落ちてる
すぐに私は音程をとって歌いだす
すると当然それまで当たり障りない事しか言ってなかった
アシスタント・ディレクターの親指がiPhone画面を動き回るのが見えて
彼はきっと「下手くそすぎて草」とかツイートしてるんだって
私にはわかるの
「彼女 実力ないし見せかけだけ トニー賞なんか無縁だな」
そうして今 私はなじみ深い場所にいる
現世を離れて 地獄へやってきた
あとちょっとで気を失いそう
でも私が死ぬ その寸前に
私はいつもの使い古した歌を唄い終える
誰かが私に「ありがとう」と言って
壮健を祈られる
ふと気が付けば私はタコ・ベルにいて
口いっぱいに肉を詰め込んでる

焦っちゃいけないってわかってるの
よりよい自分でいようと努めてる
暗く悲観的にならず
もっと聖人君子みたいになろうと
エックハルト・トールの本を読んでるの
彼の言ってることとてもわかりやすいわ
仏教の鈴を買ってみたのよ
心をリラックスさせるのにいいらしいの

私にはこれっぽっちも効かない
床に座り込んだ私の脳裏には
過去の死ぬほど恥ずかしい失敗が
次々と鮮明によみがえっていく
そして思うの
これ以上の恥辱を上塗りしたがるなんて
どんなマゾヒストだよって
だって私にはわかってるんだから
いっつもその通りになるのよ
だって私はいつも
いっつも
マイケル! 黙ってて!

私にはどうなるかわかってるの
わかってないなんて言わせない
いつか日の目を見るとか言わなくていい
だってそんなの無理なんだから
才能があるだの 心が優しいだなんて言葉いらないの
私は賢いだなんて 言われなくてもわかってるのよ
ええ 私は賢いから自覚できてるの
クソみたいな食生活でダイエットできるわけない
と素直に認められないくらいに自分はバカだってこと
大切なのは
潔くあきらめて荷物をまとめるタイミングを
見誤らないこと

あなただってわかってるでしょ
私にはわかるのよ
よし こうするわ
私 辞める!
辞めてやる!
辞ーめた!

2023年8月1日火曜日

Tootsie - Opening Number

マンハッタンに夜がくる
じきに太陽は姿を消して
期待があたりを満たす
ひとつまたひとつ ともる灯りとともに

足は空を飛びたくてうずうずして
脈拍が今にも駆け上がろうとしてる
だってあなたは 若く自由で
絶好の場所にいるんだから

この場所に
たった今
あなたはニューヨークの一部なんだ
夜が息を吹き返していく
ニューヨークの中心で

これ以上ないほど興奮する
ここより美食の揃った地なんてない
全てがあなたを歓迎してくれる
なんだって最高が揃ってる
誰だって心が舞い上がり
みんな野心に燃えている
つまらない人なんていない
この感情に並ぶものなんて
ほかにない

ここでなら
なんだって可能なんだという気持ちになれる
不可能だって可能にしてしまう
それが

ニューヨーク

起きたまま夢を見られる
どんな夢だって現実にできる
それが

ニューヨーク

マイケル・ドーシー:
冷たい舗装の下には
人の真心に溢れた街がある

アンサンブル:
ああ なんて面白い
目のくらむほどに
ここに並ぶ場所なんてない
これこそが最高

マイケル:
待った

アンサンブル:
次はあなたが光り輝く

マイケル:
待ってくれ

アンサンブル:
ああ なんて街だろう

ロン・カーライル:
いったん中止

マイケル:
ロン、ちょっと、ロン

ロン:
中止だ

マイケル:
ロン

ロン:
よし、みんな聞いてくれ
リハーサルはまたもや中断だぞ
なぜなら、そこのミッチェルから
またひとつ大事な質問があるらしいからな

マイケル:
ミッチェルじゃなくてマイケル・ドーシーです
あと僕の役なんですけど
「人の真心に溢れた街」なんて言うキャラですか?
彼はトラウマ持ちの元軍人で
熱波の襲う真夏にアパートを追い出されたんですよ
真心だって? ありえないね

ロン:
この脚本のいったいどこに
そんなことが書かれてるっていうんだ?

マイケル:
僕が考えたキャラ設定です

ロン:
キャラ設定だって?
この役、この男には名前すらついてないんだぞ
ただの「通りがかりの男性」だ

マイケル:
僕の演じるキャラクターには
ちゃんと相応しい描かれ方がされるべきだ
僕はただ、この舞台に立ってる役者全員の
本音を代弁してるに過ぎませんよ

ロン:
なあお前さん、これはロン・カーライルのショーだ
つまり俺の描く、俺が無からすべて創造する舞台なんだよ
気に入らないなら外れてもらうまでだ

マイケル:
曲全体からですか?

ロン:
はは、ショー全体からだよ
俺が今後つくるどんな舞台からも
今後ずっと
未来永劫
ずーっとだ

マイケル:
このオープニング曲はお優しいだけで不誠実だし
監督はありふれたもんしか書けない無能の物書きだ
このミュージカルは
駄作だ!

アンサンブル:
これはマイケル・ドーシーの物語
彼がお話の主役
彼は俳優なのかって?
もちろん そうだよ
成功してるかって?
そりゃもちろん してるわけがない
だからって才能がないわけじゃない
その点は誰だって否定しないよ
ジョン・ギールグッドにだって劣らない実力がある
でもその名前が看板を飾ることはない

マイケル:
カーラ、俺ァ君のためにすべて捨てたんだ
だたその橋を渡るためだけにさ、カーラ
あの灰色の橋をさァ

ディレクター1:
もう結構です、ドーシーさん
探してるのはもっと若い人なので

マイケル:
それでしたら
若くもなれますよ、ほら

ディレクター1:
残念ですが、もう少し背の低い人がよくて

マイケル:
ああ、でしたらほら
ね、これなら高くないでしょう

ディレクター1:
ごめんなさいね、もうちょっと違う人がいいかも

マイケル:
あなた そもそもどんな人間を探してるのか
わかってなさそうに聞こえますけどね

ディレクター1:
あなた以外がいいって言ってるの
帰ってください

アンサンブル:
どうもなんだか知ってる感じがする
それは月のように姿を現す
彼はコケにされて不愉快になってる
何もいいことなんて起こりそうにない感じ
屈辱の香りが
部屋を満たしていく
そのいやな臭いは彼を飲み込んでいく
まるで安い娼婦の香水みたいに

マイケル:
ママ、パパ、はやく来て
ビスケットの様子がおかしいんだ
じぶんの尻尾を追いかけて
井戸に落っこっちゃったんだよ

ディレクター2:
悪くないが、もうちょっと楽しそうに言えるか?

マイケル:
楽しそうに?
この子供の飼い犬が井戸に落ちて死にかけてるのに
なんで楽しそうに言うんです?

ディレクター2:
俺が監督で、脚本にはそう書いてあるからだ

マイケル:
なら脚本家にそれはおかしいって言ってやってくださいよ

ディレクター2:
脚本を書いたのも俺だよ
出ていけ!

アンサンブル:
だんだん脚が震えだして
頭がずきずき痛くなってきた
だってぜんぜん仕事が貰えなくて
いっこうに売れる気配もない

男性たち:
でも彼は自由で
若いし

女性たち:
若くはないでしょ

男性たち:
まあ 確かに

アンサンブル:
でも皆が求めてるのは
ただ あんた以外の誰か!
もっと面白くて
もっと魅力的で
面倒くさくない人
うぬぼれたクソ野郎じゃダメ
求めてるのはもっと優しくて
カッとなって言い返さない人
あっちの言いぶんも仕方ないと思わない?
彼が受け入れられることってあるの?

ディレクター3:
帰ってどうぞ

アンサンブル:
わあ 本当に一発も当たらない
マジ 哀れになってきた
なんで続けてられるんだろう
辞めたほうがいいのかもね
いいや! 今にやってみせる
いずれ皆が拍手をする
いつか 彼はやってみせる
トップへ上り詰める
成功してみせるんだ
たどり着いてみせる

マイケル:
これで本日のラストオーダー締めました!

アンサンブル:
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