2023年8月1日火曜日

Tootsie - Opening Number

マンハッタンに夜がくる
じきに太陽は姿を消して
期待があたりを満たす
ひとつまたひとつ ともる灯りとともに

足は空を飛びたくてうずうずして
脈拍が今にも駆け上がろうとしてる
だってあなたは 若く自由で
絶好の場所にいるんだから

この場所に
たった今
あなたはニューヨークの一部なんだ
夜が息を吹き返していく
ニューヨークの中心で

これ以上ないほど興奮する
ここより美食の揃った地なんてない
全てがあなたを歓迎してくれる
なんだって最高が揃ってる
誰だって心が舞い上がり
みんな野心に燃えている
つまらない人なんていない
この感情に並ぶものなんて
ほかにない

ここでなら
なんだって可能なんだという気持ちになれる
不可能だって可能にしてしまう
それが

ニューヨーク

起きたまま夢を見られる
どんな夢だって現実にできる
それが

ニューヨーク

マイケル・ドーシー:
冷たい舗装の下には
人の真心に溢れた街がある

アンサンブル:
ああ なんて面白い
目のくらむほどに
ここに並ぶ場所なんてない
これこそが最高

マイケル:
待った

アンサンブル:
次はあなたが光り輝く

マイケル:
待ってくれ

アンサンブル:
ああ なんて街だろう

ロン・カーライル:
いったん中止

マイケル:
ロン、ちょっと、ロン

ロン:
中止だ

マイケル:
ロン

ロン:
よし、みんな聞いてくれ
リハーサルはまたもや中断だぞ
なぜなら、そこのミッチェルから
またひとつ大事な質問があるらしいからな

マイケル:
ミッチェルじゃなくてマイケル・ドーシーです
あと僕の役なんですけど
「人の真心に溢れた街」なんて言うキャラですか?
彼はトラウマ持ちの元軍人で
熱波の襲う真夏にアパートを追い出されたんですよ
真心だって? ありえないね

ロン:
この脚本のいったいどこに
そんなことが書かれてるっていうんだ?

マイケル:
僕が考えたキャラ設定です

ロン:
キャラ設定だって?
この役、この男には名前すらついてないんだぞ
ただの「通りがかりの男性」だ

マイケル:
僕の演じるキャラクターには
ちゃんと相応しい描かれ方がされるべきだ
僕はただ、この舞台に立ってる役者全員の
本音を代弁してるに過ぎませんよ

ロン:
なあお前さん、これはロン・カーライルのショーだ
つまり俺の描く、俺が無からすべて創造する舞台なんだよ
気に入らないなら外れてもらうまでだ

マイケル:
曲全体からですか?

ロン:
はは、ショー全体からだよ
俺が今後つくるどんな舞台からも
今後ずっと
未来永劫
ずーっとだ

マイケル:
このオープニング曲はお優しいだけで不誠実だし
監督はありふれたもんしか書けない無能の物書きだ
このミュージカルは
駄作だ!

アンサンブル:
これはマイケル・ドーシーの物語
彼がお話の主役
彼は俳優なのかって?
もちろん そうだよ
成功してるかって?
そりゃもちろん してるわけがない
だからって才能がないわけじゃない
その点は誰だって否定しないよ
ジョン・ギールグッドにだって劣らない実力がある
でもその名前が看板を飾ることはない

マイケル:
カーラ、俺ァ君のためにすべて捨てたんだ
だたその橋を渡るためだけにさ、カーラ
あの灰色の橋をさァ

ディレクター1:
もう結構です、ドーシーさん
探してるのはもっと若い人なので

マイケル:
それでしたら
若くもなれますよ、ほら

ディレクター1:
残念ですが、もう少し背の低い人がよくて

マイケル:
ああ、でしたらほら
ね、これなら高くないでしょう

ディレクター1:
ごめんなさいね、もうちょっと違う人がいいかも

マイケル:
あなた そもそもどんな人間を探してるのか
わかってなさそうに聞こえますけどね

ディレクター1:
あなた以外がいいって言ってるの
帰ってください

アンサンブル:
どうもなんだか知ってる感じがする
それは月のように姿を現す
彼はコケにされて不愉快になってる
何もいいことなんて起こりそうにない感じ
屈辱の香りが
部屋を満たしていく
そのいやな臭いは彼を飲み込んでいく
まるで安い娼婦の香水みたいに

マイケル:
ママ、パパ、はやく来て
ビスケットの様子がおかしいんだ
じぶんの尻尾を追いかけて
井戸に落っこっちゃったんだよ

ディレクター2:
悪くないが、もうちょっと楽しそうに言えるか?

マイケル:
楽しそうに?
この子供の飼い犬が井戸に落ちて死にかけてるのに
なんで楽しそうに言うんです?

ディレクター2:
俺が監督で、脚本にはそう書いてあるからだ

マイケル:
なら脚本家にそれはおかしいって言ってやってくださいよ

ディレクター2:
脚本を書いたのも俺だよ
出ていけ!

アンサンブル:
だんだん脚が震えだして
頭がずきずき痛くなってきた
だってぜんぜん仕事が貰えなくて
いっこうに売れる気配もない

男性たち:
でも彼は自由で
若いし

女性たち:
若くはないでしょ

男性たち:
まあ 確かに

アンサンブル:
でも皆が求めてるのは
ただ あんた以外の誰か!
もっと面白くて
もっと魅力的で
面倒くさくない人
うぬぼれたクソ野郎じゃダメ
求めてるのはもっと優しくて
カッとなって言い返さない人
あっちの言いぶんも仕方ないと思わない?
彼が受け入れられることってあるの?

ディレクター3:
帰ってどうぞ

アンサンブル:
わあ 本当に一発も当たらない
マジ 哀れになってきた
なんで続けてられるんだろう
辞めたほうがいいのかもね
いいや! 今にやってみせる
いずれ皆が拍手をする
いつか 彼はやってみせる
トップへ上り詰める
成功してみせるんだ
たどり着いてみせる

マイケル:
これで本日のラストオーダー締めました!

アンサンブル:
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